一酸化窒素吸入療法の有害事象として誤っているのはどれか。
1: 左心不全の増悪
2: メトヘモグロビン血症
3: 中止後の肺動脈圧の上昇
4: 二酸化窒素による気道損傷
5: 体血管拡張による血圧低下
吸入一酸化窒素(iNO)療法は、酸素療法や人工呼吸器管理下で、酸素に一酸化窒素(NO)を微量添加することにより、NOの肺血管選択的拡張作用を利用した治療法である。
吸入されたNOは、対流と拡散により肺胞へと運ばれてすみやかに組織に吸収され、血管平滑筋で細胞内のグアニル酸シクラーゼを活性化してcGMP(環状グアノシン一リン酸)を増加させ、血管平滑筋を弛緩させる。平滑筋弛緩に関与しなかったNOは、血管内でHbと結合して数秒で不活化されるため、体血管拡張には作用せず、肺血管のみを選択的に拡張させる。
iNO療法では、NOが気体として経気道的に吸入されるため、換気のよい肺胞により多く取り込まれ、その肺胞周囲の血管拡張に作用することから、換気血流比不均衡を改善させる。また、肺血管抵抗を減少させることにより、右室機能の負荷を軽減させる。
NOが酸素と反応すると、強い毒性を有するNO2が発生する。NO2に曝露すると急性気管支炎を生じ、高濃度では肺水腫に至る。
1:NOにより肺血管が拡張すると、右心から左心への血流が増加するため左心の前負荷が増加する。左心不全がある場合は、NO吸入によりさらに憎悪させることになる。
2:NOは血中のヘモグロビンと結合してメトヘモグロビンとなる。長時間の使用やNO濃度が20 ppm以上では、メトヘモグロビン血症を起こす可能性がある。
3:急激なNO吸入の中止はリバウンド現象により肺高血圧症を憎悪させることがある。
4:NOが酸素と反応すると、強い毒性を有するNO2が発生する。NO2にが気道粘膜に接触すると水と反応し硝酸や亜硝酸になり、気道損傷や肺障害をきたす危険がある。
5:正解。NOは血中でヘモグロビンとすみやかに結合し、血管拡張作用は消失するため体血管系には影響を及ぼさない。